学園棋神伝マインドル キリエ編クリア後記

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さーて、さてさて。
『学園棋神伝マインドル』について、
キリエ編を完全クリアしたので、いろいろ書きます。色々。


『学園棋神伝マインドル』公式サイト
http://site-a.info/game/mindll/


前にも何度かここで言及しましたが、改めてもう一度基本的なことを書いておくと、
『学園棋神伝マインドル』は、上記のサイトで公開されている、
「プレイ時間約60時間(全ルート合計)」
「ファイルサイズ約2.1G」「全年齢対象フリーウェア」の
ボードゲームをしながら学園生活を満喫したりしなかったりする大長編ノベルゲーム」
です。


その規模だけ見ても個人制作でこれほどのものはそうそうないし、
しかもスクリプトエンジンから自作されているらしく、
相当の時間と労力をかけて制作されたことはまず間違いないのですが、
しかし各種フリゲサイトには登録されておらず、ネット上に全然プレイ報告もなくて、
そりゃあんまりだろ……という思いから、普段アクションゲームしかやらない私が、
試しにちょっとやってみるかとDLしたのが昨年の11月末でした。



一応、過去にここで触れた記事にもリンクしておきます。


https://bunaguchi.hatenablog.com/entry/2019/12/27/195954
https://bunaguchi.hatenablog.com/entry/2020/02/05/212004
https://bunaguchi.hatenablog.com/entry/2020/03/31/092229


前にここで触れたのは3月末か。
「最後まで見届けたいと思います」って書いてましたね。
あれから4か月。ついに自分との約束を果たしたのであった。
思いのほか長い道のりだった……いやマジで。
ノベルゲーは専門外で多くを語る見識がないので
上記の記事では他の話題のついでみたいな扱いでしたが、
いろいろあったので今回はガッツリ書きます。


訂正と攻略情報

まずですね、キリエ編について、前の記事には
「選択肢のたびに上下する好感度的な内部パラメータがあるわけでは無さげ?」
って書いたんですが、これが大間違いでした。
実際は多くの選択肢で内部パラメータが変動しており、
そのパラメータが最終話の結末に大きく関わる分岐に関与しているようです。


8話以降に進むためには、7話の強制バッドエンド判定を突破する必要がありますが、
そこまでのいくつかの重要な選択肢(選択肢直後の展開が明らかに変わるやつ)を
間違えてさえいなければ、他はそこまで神経質にならずとも8話には進める……
というのは前に書いた通り。


なので、その7話の判定をパスしたら、
以降の展開は7話以前に戻らなくても操作可能だろうなと推測して
しばらく進めていたのですが、これがまた読み違い。


最終的には大きく分けて2種類の結末が用意されているのですが、
条件が厳しい方のエンディングに到達するには
前述のパラメータをかなり高い値まで上げる必要があり、
8話に進むことができても、その時点で不足分が8話以降で取り返せる量を超えていて
既にエンディングが確定しているということが大いにあり得るようです。


私の場合、一度通常エンドを迎えた後、真エンド(と便宜上書きます)に行くには
より「キリエと関わる」選択肢を選んでいけばいいんだろうなと
話の流れから予想がついたのですが、なにせ値そのものが見えない上に、
選択が正しかったかどうかの答え合わせがされるわけでもないので、
それだけで真エンドに辿り着けるわけもなく……。


各話冒頭でセーブを取り、選択肢の結果を確認&検討しつつ、
正しそうな選択肢に当たりをつけて選びながら、
最終話で新たな展開が起こることを祈る……
という形で何周かしたのですが、それでもあと一歩及ばず、
最終的には作者様のサイトに掲載されている攻略ヒントの助けを借りて
ようやく真エンドに到達できました。ふう……。


http://www.site-a.info/suicideinsubculture/mindll.html

↑こちらのページに攻略ヒントが掲載されています(キリエルート限定)。
ただこれもあくまで一部選択肢のヒントに留まっているので、
どのみち真エンドを目指す場合は自分である程度試行錯誤することは
避けられないものと思われます。
また、キリエルートは「自殺」をテーマとして扱っており、
上のヒントページもそういう観点からの記事となっているので注意。
まあ何を注意する必要があるのかは私も自分で言っててよく分かりませんが、
やはりそういう、世間一般から忌避されるテーマを扱ったゲームだということも
プレイヤーが少ない一因でしょうか。


あと試してないので詳しくは分かりませんが、内部の変数などを表示できる
デバッグモードでの起動のしかたがreadmeに書いてありますので、
チートじみた方法で攻略することを厭わない方は、
やってみると攻略が楽になるかもしれません。


ストーリーやキリエの主張とか諸々についての雑感(ネタバレあり)

というわけで、ここまでやった身として、
内容についての感想を、書いとかんといかんなと思うわけですが……
何をどう書けばいいのか難しいなというのも正直なところ。

色々考えたんですが私の文章構築能力を超えてて全然まとまらないので、
未プレイの人への説明とかネタバレ配慮とか考えずに、
書きたいことをつらつらと書きます。
未プレイの人はこれ以降を見ない方がいいかも。




前にもちらっと書きましたが、共感度の高い内容だった二葉知子ルートと違って、
キリエルートは、なかなか共感を得るのが難しい内容を含んでいまして。


「この世の全てには意味も価値もない」
「人生には間違いしかない」
「いいことがいくらあってもキリがない(生きる理由にならない)」


などなど……。
そんなキリエの言動を主人公はプレイヤー(私)を差し置いて勝手に理解し納得し、
どんどんキリエに感化されていくので、その辺にだいぶ置いてきぼり感がありました。
それに加えて、打開するためには最初からやり直し必至の7話での強制バッドエンド。


これはやはり俺が触れるべきゲームではなかったのでは……
みたいな考えも頭をよぎったりしたんですが、なんだかんだでプレイを続けて
どうにかこうにか完全クリアまで漕ぎつけることができました。


キリエの主張に関しては、あれこれ考察して、
最終的には、私なりに理解できた気はします。
「完全に理解した!」とはとても言えないし、
理屈としては理解できてもなお感情的な共感が得られない部分は残りますが。


具体的な考察の過程はここに書くのは面倒だしまとめきれないので、
見たい方はTwitterで「#学園棋神伝マインドル」のタグで検索していただくと
私のそれっぽいツイートが出てきます。
このタグで私のツイートが埋もれるくらいプレイヤーが増えればいいですね……。


で、キリエの考えを要約(あくまで要約、実際はもっと色々言ってる)すると、
「この世の全ては無意味、生きることは間違いの積み重ね」というのが
キリエの到達した「真実」であり、
そこから導き出されるのが「反出生」と「自殺の肯定(容認)」なのだと思いますが、
それに対する私の考え……は、ここに書く必要あるのかな。


いやぶっちゃけると、どう考えてもこのキリエの主張は、
作者さんの思想がダイレクトに反映されている度合いが高いように思えるので、
それに対してああだこうだ言ってしまうのは躊躇ってしまうというか、
それはもう「ゲームの感想」ではないのでは?という葛藤があり、
ゆえに最初に書いたように、「何をどう書いたらいいのか難しい」。

しかしキリエルートの場合はそれがストーリーの主軸そのものであり、
そこに対する言及を避けたら「感想」にならんだろという思いもあり……。


なので軽く書いておくと、少なくともキリエの考えは、
間違ってはいないのかな、と。


私はあんまり世界の在り方や人の生き方について
確固たる意見を持ってるわけでもないのでたいしたことは言えないんですが、
キリエの到達した「真実」を前提として考えると、
キリエの主張自体に矛盾と言えるほどの問題はないように思えるし、
子孫を残すことをやめて「負の連鎖」を終わらせるべきというのも理解できます。


自殺に関しても、私なんかは「生きる意味がないからって別に死なんでも……」
と反射的に思ってしまうところはあるんですが、
それが通じるのは生を死よりも「良い状態」と捉えたときの話であり、
少なくともキリエにとってはそうではないので、
それを理解したらもう何も言えないよね、という。


一般的な価値観では、「人類という種を今後も存続させなければならない」
という前提がこの世のあらゆる物事に関して設定されているんだと思いますが、
それを認めるなら、その過程で発生する人々の不幸はある程度容認しなければならず、
それを許せないキリエのどうしようもない優しさが
「真実」の根底にあるんだろうな……と感じました。


一般的な価値観と、キリエの到達した「真実」のどちらが「正しい」のかは
少なくとも私には答えを出せないし、
結局はそれを考える各人が何を望み何を信じるのかという、
個人個人の信念に帰することになるんじゃないのかな。
そんなことを考えました。


あともう一つ。主人公がプレイヤー(私)を差し置いて
勝手にキリエに感化されていくのが置いてきぼり感があったと書きましたが、
ある意味これは仕方ないんだろうな、ともプレイを重ねるうちに思いました。
そもそも私みたいなプレイヤー向けには作られていないというか。


第5話が実質的に「ちゃんと(?)世界の意味や価値を見失ってるか」の
テストになっていて、ここで世界に意味や価値を見出す選択をすると、
主人公がその後に送る「普通の人生」がダイジェストで語られて
そこで話が終わってしまうんですよね。
キリエや主人公に同調できないプレイヤーはここでお別れです、という作り。

私はその辺をあんまり理解してないうちにこのテストを
ゲーマー根性(総当たり)で突破してしまったので、
その後の展開がすぐにはしっくりこなかったのかな……などと思いました。


つまり総合すると、このゲームの少なくともキリエルートに関しては、
「世界に絶望して死にたい気持ちを抱えてる人向け」ということになるのでしょうか。

「主人公=プレイヤー」という図式を律儀に守るなら、
私は間違いなくこの5話で脱落すべき人間のはずなので、なんというか、
これはやはり俺が触れるべきゲームではなかったのでは……
ということになってしまうわけですが。


エンディングについて(超ネタバレあり!

上記のようなことを考えながらどうにか両方のエンディングに辿り着けたので、
ここからは超ネタバレ事項である、ストーリーの結末に対する感想を書きます。


真エンド、すなわち見るのが難しいエンディングの方についてですが、
素直に言ってしまうとこれは凄く良かった。最高でした。

プレイを繰り返してキリエの主張を理解できるようになってもなお、
理解はできるが共感はできない部分が最後まであったと上に書きましたが、
真エンドもこのまま自分の共感とは程遠い形の結末を迎えるんじゃないかと
危惧していて、それだけにラストがああいう形に収まってくれて本当に良かった。


というのも、まさにその
「理解はできても共感はできない」=「理屈は分かったけど感情が納得しない」
ことが、物語中でも状況をひっくり返すキーになっていたので。
それだけにあのラストは納得度が高かったですね。


「楽しいことはキリがない」とか
「死のうとしない体や心と向き合った上でそれでも死を選ぶ」とか、
キリエは自分自身の内から発生する感情をきっぱり否定して、
理性で結論付けた「死ぬことの正しさ」を最後まで固持し続けたし、
主人公もそんなキリエを肯定していたので、
それを今さら感情の力で覆すのは無理だろうと
私は予想していたんですが、いやはや完全に予想を外されました。


死のうとしない心(感情)を理性で否定したキリエに対し、
誰よりも理性的であるはずの知子が「それでも生きてほしい」という
剥き出しの感情をぶつけることでキリエに変化をもたらすのがすごく良かった。
全ての理屈をかなぐり捨てた「死んでほしくないんだ!」という感情の力が
キリエをこの世に引き戻すのが感動的。


私はあのラストを見るまで、このお話は「キリエの話」だと思っていて。
主人公はキリエに干渉せず、ただ「見届ける」立場になっていくし、
知子の立ち位置もあくまで主人公(プレイヤー)がキリエを理解するための
解説役がメインだと捉えていたので、それだけに衝撃の結末でした。
冷静に考えると展開としては唐突な気もするんですが、
(知子は決行日と場所をどうやって知った?)
あのカタルシスの前にそんなんどうでもよくなった感じ。
キリエだけじゃない、主人公を含めた3人の物語としての結末。


思い返してみると、7話で回想シーンなのにわざわざ知子視点に
切り替わる場面があるのはこのラストに繋ぐためかなとか、
伏線とも取れるような新たな発見がありますね。
11話で知子が自分を「最初から死んでいるようなものだ」と言っていたのが、
ラストで「生きることそのもの」になるのが美しいな、とか思いました。


で、その後の流れは……一番オイシイところなので
あえて具体的には書きませんが、まあ、ああいうことになって大団円。
いやキリエ視点では別に何かが解決した訳ではないんでしょうけれど、
それでももう大団円と言っていいだろうあれは(笑)
最後の最後にそこに着地するのは流石に予想外すぎました。


エピローグまでの一年半と、その後の3人がどうしたかということについて
一切何も語ってないのがニクイというか、
これ同人で絵とか文章とかを書く人がファンにいたら
二次創作が無限に捗るやつですよね?
未プレイでここまで読んでしまった方がもしいたら、
実際プレイして確かめてほしい。大変だけど。


テーマ的視点から解釈するなら、自殺という選択をした人を引き止めるには
あそこまでする覚悟が必要ということでもあるのかな。
知子が最後に見せた、他者の全てを背負いこむ覚悟は、
現実にはそうそうできない、できる人がいないと思うので。

そういう意味で、主人公がキリエに対して最後まで傍観者というか
実況担当みたいな役割だったのにも納得できるところではあります。
キリエの基本的な考え自体は、真エンドでも最後まで変わることはなかったので、
受け入れて送り出す主人公の選択(=通常エンディング)も否定はされていない。


通常エンドに関しては、順当にキリエが死んで終わるわけですが、
最後の「大丈夫だ」だけ、ちょっとよく分からなかったというのが正直なところです。
主人公がキリエから愛(=原初の願い?)を受け取ったのはいいんですが、
それで何がどう大丈夫なのかという、そのあたりが抽象的で……。
あえてぼかしているんだろうなとは感じられるので、
単に私の読解力が足りてないだけかもしれませんが。


知子が向き直っての「それでもお前は生きるのだろう?」が
完全に画面を挟んだこちら側にいるプレイヤーに対する問いかけになっていて、
「生きる」を問うストーリーの続きがこちら側に託されるのが印象的でした。


最後に

感想はそんなところなのですが、
いやはや最後までプレイできて本当に良かった。


これはやはり俺が触れるべきゲームではなかったのでは……

という気持ちがあったと何度か書きましたが、
そもそも以前最初にマインドルについて言及した記事で、
「私なんかが触れていいモノなのか、ちょっと躊躇する」
って書いてましたので、つまり私向けの内容でないことは
最初から半ば分かっていたんですよね。

にも関わらず、「全然プレイされてなくて不憫」みたいな
「情」を理由にプレイすることを選んだその事実が、
作中の「選択」に関する話とオーバーラップ。


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自分は何を「選択した」のか? そこで「情」を取った以上、
「これはただのゲームであり自分は面白いから遊んでるだけ」
という言い訳はとっくの昔に立たなくなっているのでは!?
だとするなら、「俺向けじゃない」みたいな理由で
簡単にやめちゃうのも良くないな……などと、
そんな思いが最後までプレイを続ける原動力になっていた気がします。

まあ単にゲーマーの意地もありましたが(台無し)。


奇しくも真エンドのラスト、キリエの運命を変えたのが
抑えきれない「情」の力だったわけで、
まあ何というか、感情って大事だよね、と思います。

そういう意味でも、便宜上「真エンド」と呼んでいたこちらの方が
私にとっては名実ともにトゥルーエンドだなと思いました。
だって私は「情」を選んだのだから。


キリエが死ぬのを延期したように、私も
「これは俺が触れるべきゲームではなかったのでは?」
という問いに対して答えを出すのを延期しようと思います。
残る一つのルートをクリアするまで……。



と、綺麗にまとまったところで、
その未プレイで残っている最後のルートですが、
また少し期間を空けてからやりたいと思ってます。

皆月先輩は他の2人のルートでほぼモブキャラみたいな扱いなので、
いまだにあんまりキャラがつかめてないんですが、
公式の予告編を視界の端でチラ見した限りでは、
皆月先輩ルートは「意志」がテーマになるらしい?
あとなんかギャラリーの枠数がやたら多いぞ?
楽しみにしておきます。